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札幌地方裁判所 昭和43年(行ウ)53号 判決 1975年12月11日

札幌市宮ケ丘四七四番地の四一

原告

芝崎喜久こと 金守洪

右訴訟代理人弁護士

右同

五十嵐義三

札幌市中央区大通西一〇丁目札幌第二合同庁舎

被告

札幌西税務署長

坂田良雄

右指定代理人

末永進

右同

本間敏明

右同

上英雄

右同

川端健太郎

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

〔原告〕

被告が昭和四一年六月一〇日付でした原告の昭和四〇年分の営業所得金額を金一、九〇八万八、五九二円、所得税を金八九二万六、九五〇円と更正し、過少申告加算税金四四万六、三〇〇円を賦課した処分を取り消す。

訴訟費用は、被告の負担とする。

〔被告〕

主文と同旨の判決。

第二、当事者の主張

〔原告〕

一、原告は、札幌市中央区南二条西三丁目所在パチンコ店「国際ゲームセンター(以下、本店という。)」及び同市中央区南一条西四丁目所在パチンコ店「グランド国際(以下、支店という。)」を経営するものであるが、昭和四〇年分所得税の確定申告に当たり、営業所得が八四三万五、〇〇八円の赤字であった旨申告したところ、被告は、昭和四一年六月一〇日付で、右営業所得金額を一、九〇八万八、五九二円、所得税を八九二万六、九五〇円と更正し、かつ、過少申告過算税四四万六、三〇〇円を賦課する旨の決定(以下、本件各処分という。)をした。

原告は、本件各処分を不服として、昭和四一年七月一一日、被告に対し異議の申立てをしたが、昭和四二年七月四日、棄却決定がなされ、更に、同月三一日、札幌国税局長に対し審査請求をしたが、昭和四三年八月一日、棄却の裁決がなされ、同月九日付で、その裁決書謄本の送付を受けた。

二、しかし、原告の昭和四〇年分の収入金額は一億四、三六七万二、七三三円であり、これから必要経費額一億五、二一〇万七、七四一円を差し引くと、八四三万五、〇〇八円の赤字となる。したがって、本件各処分は、次に述べる各事情を看過し、原告の所得金額を過大に認定した違法がある。

1. 原告の本店及び支店における昭和四〇年分の売上げ及び支出の明細並びに収支計算は、別表(一)のとおりである。

ところで、原告は、昭和三九年に内田洋行から支店所在の店舗及び敷地を代金八、七五〇万円で購入したが、その購入資金及び支店の開業準備費用として次表のとおりの収支計算となった。

(昭和三九年の資金準備)

(一) 昭和三九年 四月~一一月 札幌信用金庫から借入れ 六、〇〇〇万円

(二) 同 年一一月 日本不動産銀行から借入れ 四、〇〇〇万円

(三) 同 年 九月 禹熙九から貸金回収 八〇〇万円

(四) 同 年一〇月 姜甲権から貸金回収 五〇〇万円

(五) 手持ち有価証券の売却 二六八万円

(六) 手持自己資金 六三二万円

合計 一億二、二〇〇万円

(昭和三九年の資金支出)

(一) 昭和三九年 六月 内田洋行へ購入資金一部支払 二、〇〇〇万円

(二) 同 年一一月 内田洋行へ購入資金残金支払 六、七五〇万円

(三) 同 年一一月 萩原工務店へ店舗改造費支払 六五〇万円

(四) 同 年一一月 平和工業へパチンコ機購入費支払 四五万円

(五) 同 年一一月~一二月 ネオン工事等諸工事費支払 一五七万円

(六) 同 年 四月~一二月 札幌信用金庫へ利息支払 四三六万円

(七) 同 年一二月 日本不動産銀行へ利息支払 六二万円

(八) 同 年一〇月 金田三郎へ一時貸付け(前記資金準備の(三)ないし(六)の資金中より) 二、〇〇〇万円

合計 一億二、一〇〇万円

(昭和四〇年の資金準備)

(一) 昭和四〇年 一月~九月 金田三郎から貸金回収 二、〇〇〇万円

(二) 同 年一二月~一二月 金光沫から借入れ 一〇〇万円

(三) 同 年一〇月 張秦一から借入れ 二〇〇万円

(四) 同 年一一月 孫秀弘から借入れ 三〇〇万円

(五) 同 年一二月 金在叔から借入れ 一〇〇万円

(六) 前年からの繰越手持資金 一〇〇万円

(七) 別途用意の手持資金 五〇万円

合計 二、八五〇万円

(昭和四〇年の資金支出)

(一) 昭和四〇年 一月~一二月 日本不動産銀行へ利息支払 三七八万円

(二) 同 年 四月~一二月 同銀行へ元本返済 九〇〇万円

(三) 同 年 一月~一二月 札幌信用金庫へ利息支払 五六七万円

(四) 同 年 一月~一二月 支店へ店主元入追加 八二〇万円

(五) 同 年一〇月~一一月 本店へ店主元入追加 一五〇万円

合計 二、八一五万円

被告は、右のとおりその資金関係が明確にされているにもかかわらず、原告がたまたま右の元本返済及び利息支払を記帳しなかったことをとらえて、原告の申告に信憑性がないものとしているが、これは、日常の店の売上げによる収益では充当しきれない多額の資金のやりくりをしなければならないため、店の日常の収支とは別に原告が別途借入れあるいは貸付金の返済を受けることなどを直接行なっていたため、店の帳簿から脱漏したものであって、店の売上金を充当したためではない。

次に、被告は、知人からの借入れ等が金融機関を経由しないで現金授受によって行なわれたことを問題としているが、この点については、原告ら朝鮮人業者は、種々の理由から多額の金銭授受の際にもしばしば金融機関を経由せず、また、借用証、領収書も作成しないで、直接、現金授受によって行なうことが多いのである。

2. 被告は、原告が昭和四〇年分の収入金額から二、八五九万二、九二六円を除外して別途保有していたと認定している。

しかし、支店開業後間もなく札幌市中央区南一条西三丁目にパチンコ店「レジャーセンター」が開店し、この予想しない競合店のためサービス競争が激しくなり、本・支店の営業が不振となったので、昭和四〇年において、右のような収益を得たことはない。

3. 被告は、本件各処分に際し、同規模同業者との収入状況の比較も勘案している。しかし原告が個人経営の白色申告者であるのに、比較の対象となった同業者はすべて法人の青色申告者の例であること、店舗の規模、立地条件の差異る考慮に入れていないこと、収入の比較に当たり、単にパチンコ機一台につき一日当りの収入金額のみによっていて、パチンコ玉と景品との交換差益、出玉の加減による差益を考慮していないため、原告の利益率(売上額に対する利益金の割合)が比較の対象となった同業者の平均値一七・一パーセントをはるかに超え、更に、最高値の二〇・三パーセントも超える二五・二パーセントにもなってしまうなど、極めて不適切である。

三、よって、原告は、被告に対し、請求の趣旨記載のとおり違法な本件各処分の取消しを求める。

四、被告主張第三項1の(一)、2の(一)ないし(四)4の(一)ないし(一八)、5の(一)ないし(四)、6の必要経費額、雑収入金額、第四項、第五項の事実は、いずれも認める。

〔被告〕

一、原告主張第一項の事実を認める。

なお、原告は、白色申告者であるが、被告は、事業所得金額のほか、後記第五項の給与所得金額一万八、〇〇〇円をも合わせ、更正した。

二、同第二項の事実を否認する。

原告は、異議申立時、審査請求時及び本訴提起時とそれぞれの段階ごとにその主張を変えており、入金額全体につき信憑性がない。また、原告の金田三郎に対する二、〇〇〇万円貸付けの主張も、同じく三度主張が変わっていて信用できないし、孫秀弘らからの借入れの主張も、全く信用できない。

三、被告は、昭和四〇年において原告が記帳しないで支払をした銀行借入金(支店の開設資金等として、札幌信用金庫などから昭和三九年中に約一億円の融資を受けていた。)の元本返済八〇〇万円及び支払利息八六五万一、三五〇円並びに事業経営資金等として投下した旨帳簿に記載してある一、一九四万一、五七六円の合計二、八五九万二、九二六円につき、いずれもその資金の出所が不明であるところから、原告において売上金を脱漏したものと認定し、必要経費額等についても、所得税法の規定に照らして所要の修正を加え、事業所得金額を次のとおり算出した。

1. 収入金額

(一) 原告記帳額 一億四、三六七万二、七三三円

(二) 認定加算額

(1) 収入除外金を資金源として簿外支出を行なったと認められる借入金元本返済額 八〇〇万円

(2) 右同様の支払利息額 八六五万一、三五〇円

(3) 収入除外金を資金源として事業経営等に投下したと認められる店主借金額 一、一九四万一、五七六円

(4) 小計 二、八五九万二、九二六円(別表(二)の1・2参照)

(三) 合計収入金額 一億七、二二六万五、六五九円

2. 収入原価

(一) 期首景品たな卸高 一七七万五、七一五円

(二) 景品仕入高 一億一、八五八万七、〇〇九円

(三) 期末景品たな卸高 一九三万六、七八五円

(四) 差引収入原価 一億一、八四二万五、九三九円

3. 差引差益金額 五、三八三万九、七二〇円

4. その他必要経費額

(一) 給料手当 八六三万一、二一〇円

(二) 従業員賄費 二五五万六、三七四円

(三) 福利厚生費

(1) 原告記帳額 一〇五万〇、五一一円

(2) 減算額 二八万〇、七三七円

原告記帳額中の従業員用寝具代本店分一六万七、一九〇円及び支店分一一万三、五四七円は、従業員への立替金であって後日回収したものと認められるため、必要経費額から減算した。

(3) 差引金額 七六万九、七七四円

(四) 通信費 二〇万〇、九七九円

(五) 交際費 四三万〇、〇〇五円

(六) 広告宣伝費 七〇万三、八二〇円

(七) 消耗品費 六五万六、三五〇円

(八) 修繕費

(1) 原告記帳簿 三九万三、三五五円

(2) 加算額 一五万五、〇〇〇円

原告が資産勘定に計上し、減価償却計算を行なった本店分パチンコ機のメッキ代一五万五、〇〇〇円は、いわゆる資本的支出(所得税法施行令第一八一条)ではなく、修繕費に該当すると認められるため、必要経費額に加算した。

(3) 減算額 五万円

原告記載額中の支店分ボイラー代五万円は、資産計上相当と認められるため、修繕費から減算し、減価償却計算を行なった。

(4) 差引金額 四九万八、三五五円

(九) 公租公課

(1) 原告記帳額 一五〇万七、三九四円

(2) 加算額 六万六、一〇〇円

原告記帳額には、必要経費に算入すべき昭和四〇年分事業税の一部金額が計上されていなかったため、審査請求時における原告(税務代理人杉木甚一)の申立てに基づき、未納額六万六、一〇〇円を加算した。

(3) 減算額 九、四五〇円

原告記帳額中の本店分自動車税一万八、九〇〇円については、原告の所有する乗用自動車の諸経費がいわゆる家事関連費(所得税法第四五条)であると認められるため、事業用割合を五〇パーセントと認定し、右金額の五〇パーセント相当額九、四五〇円を必要経費額から減算した。

(4) 差引金額 一五六万四、〇四四円

(一〇) 光熱費 二〇六万五、九七二円

(一一) 火災保険料

(1) 原告記帳額 三四万五、二一〇円

(2) 減算額 七、七五五円

原告記帳額中の支店分自動車賠償保険料一万五、五一〇円については、前記自動車税同様、五〇パーセント相当額七、七五五円を必要経費額から減算した。

(3) 差引金額 三三万七、四五五円

(一二) 車両経費

(1) 原告記帳額 一三万七、四〇九円

(2) 減算額 六万八、七〇四円

前記自動車税同様、五〇パーセント相当額六万八、七〇四円を必要経費額から減算した。

(3) 差引金額 六万八、七〇五円

(一三) 組合費

(1) 原告記帳額 六二万一、八二〇円

(2) 減算額 三六万三、二〇〇円

原告記帳額中の支店分「朝鮮総連札幌支部費」三六万三、二〇〇円は、業務上の費用とは認められないため、必要経費額から減算した。

(3) 差引金額 二五万八、六二〇円

(一四) 原価償却費

(1) 本店分償却額 七六万九、五四〇円

(2) 支店分償却額 二九五万三、五六一円

(3) 合計償却額 三七二万三、一〇一円

(一五) 雑費

(1) 原告記帳額 四一万七、七二九円

(2) 減算額 七万円

原告記帳額中の支店分敬老会(朝鮮商工会)寄附金三万円、朝鮮総連寄附金一万円及び在日朝鮮同盟寄附金三万円は、業務上の費用とは認められないため、必要経費額から減算した。

(3) 差引金額 三四万七、七二九円

(一六) 支払利息等

(1) 審査請求時の原告計算額 九四二万九、二一〇円

(2) 加算額 二〇〇円

原告の計算には、札幌信用金庫からの借入れ(昭和四〇年七月三一日借入金三〇〇万円)に際して支払った印紙代二〇〇円が計上もれのため、必要経費額に加算した。

(3) 合計金額 九四二万九、四一〇円

(一七) パチンコ機除却損失

(1) 本店分損失額 四一万〇、三八六円

(2) 支店分損失額 七一万〇、九八三円

(3) 合計金額 一一二万一、三六九円

(一八) その他必要経費額合計 三、三三六万三、二七二円

5. 雑収入金額 四一万三、一五二円

原告がたばこ(景品)の仕入先から収受していた四パーセント相当額のリベートが記帳もれであったため、次のとおり認定し、事業所得金額に加算した。

(一) 本店分たばこ仕入額 三八九万三、〇〇〇円

(二) 支店分たばこ仕入額 六四三万五、八〇〇円

(三) 合計たばこ仕入額 一、〇三二万八、八〇〇円

(四) リベート額 一〇、三二八、八〇〇円×四%=四一三、一五二円

6. 差引事業所得金額 二、〇八八万九、六〇〇円

差引金額-必要経費額+雑収入金額 五三、八三九、七二〇-三三、三六三、二七二+四一三、一五二=二〇、八八九、六〇〇円

四、昭和四〇年分の譲渡所得について

原告が昭和四〇年一二月に売却した支店分パチンコ機一八〇台の損失六六万〇、四七一円は、資産の譲渡による損失であるため、譲渡所得とする。

五、昭和四〇年分の給与所得について

原告は、朝鮮北海道信用組合の理事長として、昭和四〇年九月から同年一二月までの間、報酬四万円(月額一万円)及び賞与一万円を受給していたものであり、給与所得金額は、次のとおりである。

1. 収入金額 五万円

2. 給与所得控除額 三万二、〇〇〇円

(昭和四〇年三月三一日法律第三三号による

3. 給与所得金額 一万八、〇〇〇円

六、本件各処分の適法性について

以上の各種所得金額を加減算すれば、総所得金額は二、〇二四万七、一二九円となり、更正した総所得金額一、九一〇万六、五九二円(給与所得金額を含む。)を上回る。

また、右総所得金額一、九一〇万六、五九二円を基礎とする課税総所得金額の計算(配偶者控除等の所得控除四一万七、五〇〇円については、原告申告額のとおり。)及び税額の算出並びに過少申告税の計算過程についても、違算はない。

七、 なお、本件は推計課税ではないが、被告は、同規模同業者との収入状況も比較対照した。その内容は、後記のとおりであるが、被告の実額計算の正当性を裏付けている。

1. 同規模同業者の範囲及び営業規模について

被告は、原告の収入金額の推計に当たり、その間接的な資料として同業者の収入金額を考慮した。右同業者の範囲及び営業規模ないしその選定状況は、次のとおりである。

(一) 原告の店舗が札幌市中央区南二条西三丁目(本店)及び同市中央区南一条西四丁目(支店)に所在していたところから、まず、その場所的範囲を同市内の中心部(ただし、いわゆる薄野地区を除く。)に限定し、同市の北四条から南三条間で、かつ、西二丁目から同五丁目間に店舗を有する同業者を抽出した。

また、右同業者の抽出に当たっては、昭和四〇年一月一日以後継続して営業を行なっているもののみとし、更に、パチンコ業(スマートボール業の併有を含む。)以外の事業を兼業するもの及び不服申立中など係争中のものを除外した。

(二) 次に、営業規模については、パチンコ機(スマートボール機を含む。以下同じ。)の台数を基準とすることとし、原告が本店において一五五台、支店において二四五台(スマートボール機五〇台を含む。)のパチンコ機を稼働させていたところから、支店分の二四五台を中心に上下約一五〇台、すなわち一〇〇台から四〇〇台間のパチンコ機を有する同業者を前記範囲内の同業者から抽出した。

パチンコ業の場合、パチンコ機一台当りの収入金額は、営業規模すなわちパチンコ機の台数等によってそれ程の較差を生ずるものではなく、むしろ店舗の場所等その立地条件に左右されることが多いと認められるが、同業者の選定に当たっては、右立地条件はもとより営業規模においても原告の店舗との類似性を求めるべく、右各条件を設定した。

(三) 以上の結果、前記範囲内における同規模同業者として法人六件、個人一件が抽出されたが、そのうち、法人一件及び個人一件は白色申告者であって、必ずしも正確な収入金額をは握し得る状況と認められなかったため、比較すべき同業者から除外した。

2. 同規模同業者の収入金額について

同規模同業者のパチンコ機一台につき一日当りの収入金額及び被告が原告の収入金額を認定するに当たって参考とした右金額の平均値は、次表のとおりである。

なお、原告のパチンコ機一台につき一日当りの収入金額は、申告収入金額において一、〇四四円、被告認定収入金額において一、二五二円である。

<省略>

(注)(一) 右同規模同業者の収入金額は、すべて申告収入金額(法人決算額)である。

(二) E法人のパチンコ機台数は、同法人の経営による三店舗の合計額である。

(三) C法人の営業日数については、実日数不明のため、原告(本店分)の営業日数を準用した。

3. 同規模同業者五法人の店舗数は、七店舗(E法人三店舗)であり、その店舗の位置及び条件は、それぞれ次のとおりである。

七店舗のうち、六店舗は、大通りの北側で、いずれも電車路面に面している。

E店舗は、同業者の店舗が一軒隣に位置している。

C店舗は、同業者の店舗が二軒隣に位置している。

A店舗は、隣接しては同業者の店舗はないが、おおむね五〇メートル以内の距離に同業者の店舗が位置している。

E店舗は、同業者の店舗が三軒隣に位置している。

B店舗は、隣接しては同業者の店舗はないが、おおむね五〇メートル以内の距離に同業者の店舗が位置している。

E店舗は、隣接しては同業者の店舗はないが、おおむね一〇〇メートル以内の距離に同業者の店舗が位置している。

残り一店舗(D店舗)は、狸小路商店で北向きに面し、おおむね三〇メートル以内の距離に同業者の店舗が位置している。

4. 収入金額-(収入原価+流動経費)の算式によって算出された所得額は、次のとおりである。

<省略>

三、証拠

〔原告〕

甲第一、二号証、第三号証の一・二、第四、五号証(以上、いずれも写しを提出したもの。)、第六号証の一ないし三、第七ないし第九号証の各一・二、第一〇ないし第一三号証(ただし、同第一一号証は写しを提出したもの。)を提出し、証人金光洙、同禹熙九、同孫秀弘、同張秦一こと金清秀、同金在叔、同杉木甚一の各証言及び原告本人尋間の結果を援用し、乙第一三号号証の成立は知らない、その余の乙号各証の成立は認める、と述べた。

〔被告〕

乙第一ないし第八号証、第九号証の一・二、第一〇号証、第一一号証の一・二、第一二ないし第一八号証、第一九号証の一ないし一四、第二〇、二一号証を提出し、証人山口勉、同藤原賢の各証言を援用し、甲第一号証の原本の存在は認めるが、その成立は否認する、第二号証、第三号証の一・二、第四、五号証の原本の存在は認めるが、その成立は知らない、第一一、一二号証の成立は知らない、その余の甲号各証の成立は認める、と述べた。

理由

一、 原告主張第一項の事実は、当事者間に争いがない。

二、 被告は、昭和四〇年において原告に合計二、八五九万二、九二六円の売上金の脱漏があり、その内訳は日本不動産銀行に対する借入金元本返済八〇〇万円及び支払利息三四五万八、二八〇円、札幌信用金庫に対する支払利息五一九万万三、〇七〇円(右支出については、いずれも原告の主張する額を下回るので、当事者間に争いがないものと解される。)の簿外支出並びに事業経営資金等として投下した旨帳簿に記載してある一、一九四万一、五七六円であると主張している。

右のうち、被告主張の簿外支出があることについては当事者間に争いがなく、成立に争いのない乙第二〇、二一号証(原告が記入し、かつ、保管している帳簿の店主勘定部分)によると、被告主張(別表(二)の2参照)のとおりの店主借金一、一九四万一、五七六円が存在したことが認められる(このうち、本店分一五〇万円と支店分八二〇万円については、当事者間に争いがない。)。

三、 そこで、前項の全員の収入源につき判断する。

1. 昭和四〇年において原告に二、〇〇〇万円の入金があったことは、当事者間に争いがない。

原告は、右入金は金田三郎から貸金を回収したものであると主張し、原本の存在は争いがなく、その成立は原告本人尋問の結果によって認める甲第三号証の一・二、証人金光洙の証言及び原告本人尋問の結果は、右原告の主張に沿うものである。

しかし、原告が金田三郎に対する貸金二、〇〇〇万円の資金源として主張するもののうち、禹熙九に対する貸金八〇〇万円とその貸金回収については、原告において、原告が八〇〇万円相当の遊技場設備を作り、これを禹に引き渡したのであって、現金を同人に渡したものではないと供述するのに対し、証人禹熙九は、自分が原告から現金で八〇〇万円を受け取ったと供述し、その現金の保管及び使途につき詳述している。ところで、少額の場合であればともかく、このような多額の場合において、物を引き渡したのかあるいは現金を渡したのかという事実につき食い違いがあることは、極めて不自然である。のみならず、仮に禹が原告に対し八〇〇万円の債務を負担していたとしても、成立に争いのない乙第一〇号証によると、同人は昭和三九年において課税所得のなかったことが認められるから、八〇〇万円もの多額の返済が可能であったかどうか極めて疑わしい。原本の存在は争いがなく、その成立は証人禹煕九の証言によって認める甲第四号証(禹煕九作成の昭和四三年一月一二日付確認書の写し)は、本件審査請求後に作成された書面であって、その記載内容をたやすく信用することはできない。また、禹からの貸金回収の事実は、成立に争いのない乙第七号証(原告提出の資金繰表)にも記載されていない。そうすると、他に特段の立証はないので、禹煕九に対する貸金八〇〇万円とその回収という事実は、原告の金田三郎に対する貸金の資金源としてあいまいであるといわざるを得ない。

次に、姜甲権に対する貸金五〇〇万円とその回収についてであるが、これに沿う証拠は、原告本人尋問の結果及びこれによって原本の存在とその成立を認める甲第一一号証(姜甲権作成の昭和四三年一月二〇日付確認書の写し)以外になく、右甲第一一号証は、本件審査請求後に作成された書面であって、その記載内容をたやすく信用することはできない。また、姜甲権からの貸金回収の事実も、前掲乙第七号証に記載されていない。そうすると、他に特段の立証はないので、姜甲権に対する貸金五〇〇万円とその回収という事実も、原告の金田三郎に対する貸金の資金源としてあいまいであり、裏付けに乏しいといわざるを得ない。

残余の資金源として主張する手持ち有価証券の売却及び手持ち自己資金については、これに沿う原告本人尋問の結果はあるが、それを裏付けるに足りる証拠はなく、成立に争いのない乙第三号証、第五号証によると、右の主張は、本件異議申立書には何ら触れられておらず、審査請求の段階に至って始めて主張されたものであり、原告本人尋問の結果をたやすく信用することはできない。

このように、原告の金田三郎に対する貸金の資金源につき疑問があるが、同人に対する貸付け自体についても、疑問が存在する。すなわち、原告は、二、〇〇〇万円を一度に金田方へ持って行ったこと、金銭授受の場に金田三郎のほか同人の祖母、息子及び大松某がいたと供述するのに対し、証人金光洙は、最初に貸したのは一、〇〇〇万円であったこと、その場所は金田方ではなく原告方であり、金銭授受の場には金田三郎のほか金光洙がいたと供述しており、両名の供述に差異がある。前掲甲第三号証の一・二(金田三郎作成の昭和四二年一月一七日付確認書の写し)は、本件異議申立後に作成された書面であって、その記載内容をたやすく信用することはできない。そうすると、他に特段の立証もなく、前記貸金の資金源が極めてあいまいなことと相挨って、金田三郎に対する貸付けの事実は認められず、むしろ、原告が本件異議申立て等を維持するために、そのことのみを目的として創造した架空のものである疑いが強いといわざるを得ない。

したがって、金田三郎に対する貸付けの事実が認められない以上、同人からの貸金回収の事実もあり得ないことに帰する。

2. 原告は、被告に否認され、事業所得として認定された金員のうち、一〇〇万円は金光洙から借り入れたものであると主張し、原本の存在は争いがなく、その成立は証人金光洙の証言によって認める甲第一号証、証人金光洙の証言及び原告本人尋問の結果は、右原告の主張に沿うものである。

しかし、証人金光洙は、昭和四〇年当時、自己の収入源としては、給与所得年間一八万円のほか、食堂三千里からの収益以外になかったこと、右食堂の所得は、昭和三六年分から昭和三八年分まで申告する程の所得がなく、昭和三九年分の確定申告額は一万三、七〇〇円、昭和四〇年分の確定申告額は八五万円、昭和四一年分の確定申告額は八万二、〇〇〇円であったと供述している。これによると、果たして金光洙において一〇〇万円もの金員を原告に貸せる程の資力があったかどうか疑わしい。前掲甲第一号証(金光洙作成の昭和四三年一月二〇日付確認書の写し)は、本件審査請求後に作成された書面であって、その記載内容をたやすく信用することはできない。そうすると、他に特段の立証がない本件にあっては、金光洙が原告に対し一〇〇万円を貸し付けたとは考えられない。

3. その他、原告は、昭和四〇年分の入金につき、これは事業所得でなく、張秦一からの二〇〇万円の借入れ、孫秀弘からの三〇〇万円の借入れ及び金在叔からの一〇〇万円の借入れ並びに前年からの繰越手持金等であると主張し、原本の存在は争いがなく、その成立は証人張秦一こと金清秀の証言によって認める甲第二号証、証人孫秀弘の証言によって成立を認める同第一二号証、原本の存在は争いがなく、その成立は証人金在叔の証言によって認める同第五号証、成立に争いのない乙第八号証、証人張秦一こと金清秀、同孫秀弘、同金在叔の各証言及び原告本人尋問の結果は、右原告の主張に沿うものである。

しかし、証人張秦一こと金清秀は、日本でかせいで持っていた手持資金を原告に貸与したと供述し、被告指定代理人の「調査によれば、あなたに対する課税はないのだが」との問に対し、「家内(金山ヒロ子)の名で所得を申告している。」「私は、申告を出して、納税はきちんとやっている。」「それは、いつでも証明書をとって立証できる。」などと答えているが、成立に争いのない乙第九号証の一・二によると、金山ヒロ子に対しても昭和三四年分以降一度も課税されたことのないことが認められる。これによると、果たして張秦一において二〇〇万円もの金員を原告に貸せる程の資力があったかどうか疑わしい。前掲甲第二号証(張秦一作成の昭和四三年一月二〇日付確認書の写し)は、本件審査請求後に作成された書面であって、その記載内容をたやすく信用することはできない。そうすると、他に特段の立証がない本件にあっては、張秦一が原告に対し二〇〇万円を貸し付けたとは考えられない。

次に、証人孫秀弘は、昭和四〇年一一月末ころ三〇〇万円を原告に貸与したと供述しているが、成立に争いのない乙第一一号証の一・二、第一二号証によると、孫秀弘が代表取締役をしている野村物産の営業成績は、昭和三八年は赤字、昭和三九年四月一日から昭和四一年三月三一日まで休業、同年四月一日から昭和四三年三月三一日まで無申告であったことが認められる。これによると、果たして孫秀弘において三〇〇万円もの金員を原告に貸せる程の資力があったかどうか疑わしい。前掲甲第一二号証(孫秀弘作成の昭和四三年一月一五日付確認書)は、本件審査請求後に作成された書面であって、その記載内容をたやすく信用することはできない。そうすると、他に特段の立証がない本件にあっては、孫秀弘が原告に対し三〇〇万円を貸し付けたとは考えられない。

証人金在叔は、手持資金を原告に貸与したこと、その資金源として昭和四〇年当事年収約一〇〇万円及び退職金約五〇万円があったこと、右収入はすべて正確に税務署に申告したと供述しているが、成立に争いのない乙第一四号証によると、金在叔は昭和三八年から昭和四三年まで課税所得のなかったことが認められる。これによると、果たして金在叔において一〇〇万円もの金員を貸せる程の資力があったかどうか疑わしい。前掲甲第五号証、乙第八号証(金在叔作成の昭和四三年一月二〇日付確認書の写し及び原本)は、本件審査請求後に作成された書面であって、その記載内容をたやすく信用することはできない。そうすると、他に特段の立証がない本件にあっては、金在叔が原告に対し一〇〇万円を貸し付けたことは考えられない。

原告は、昭和四〇年に前年からの繰越手持資金一〇〇万円及び別途用意の手持資金五〇万円があったと主張するが、前掲乙第二〇、二一号証によると、前期繰越しとして帳簿に記載されているのは一五万八、四二四円にすぎず、その余の金員については原告本人尋問の結果によっても明らかでなく、他にも右原告主張事実を認めさせるに足りる証拠はない。

四、原告は、他に二、八五九万二、九二六円の入金についての根拠を指摘せず、また、この入金が原告のパチンコ店経営による事業所得以外の原因によることを推測させる事情は皆無である。

そうすると、右金員は、専ら原告の事業による所得と考えざるを得ず、第三項においてるる述べた点から、収入金額として原告の主張する一億四、三六七万二、七三三円に対する二、八五九万二、九二六円の認定加算額は相当と認められる。右に述べた以外の収入原価、必用経費額、雑収入金額、譲渡所得及び給与所得金額については、当事者間に争いがない。右認定加算額及び前掲乙第三号証、第七号証、成立に争いのない同第六号証、証人藤原賢、同山口勉の各証言によると、被告の原告に対してした課税総所得金額の計算及び税額の算出並びに過少申告加算税の計算過程には、違法はない。

なお、原告は、昭和四〇年において二、八五九万二、九二六円もの収益を得ていないこと及び被告認定の所得金額によると、他の同業者の利益率に比較して、原告の利益率二五・二パーセントが著しく高くなると主張する。

しかし、原告は二、八五九万二、九二六円をすべて所得金額としているが、被告の認定は一、九一〇万六、五九二円の限度であり、これから給与所得金額一万八、〇〇〇円を差し引くと、一、九〇八万八、五九二円となる。これによると、原告の計算する利益率は一六・一一パーセントとなり、他の同業者の平均値として原告が指摘する一七・一パーセントを上回るものではない。原告の計算する利益率は、AないしE法人の所得額と売上原価とを比較しているのに反し、本件の場合、いわゆる荒利益と売上原価とを比較している点に誤解がある。また、原告の申告した昭和四一年分以降の事業所得については、給与所得者の場合と異なり、原告のような個人経営者の場合には、競合店の隆盛あるいは経営方針の巧拙、一般的景気の変動等により、時日の経過とともに大幅な所得額の変動があることも当然予想されるし、他の同業者のした申告及びこれに基づく利益率の中には、原告のそれより低いものもあるが、これとの比較については、事業所得の捕捉率において、本件のように税務署自らが調査した場合であるか、申告に基づきそのまま採用された場合であるかによって異なることもまれではないと考えられるから、これを単純に比較することは相当でない。

五、 よって、本件各処分には違法事由がないので、その取消しを求める原告の請求を棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 安達敬 裁判官 佐々木一彦 裁判官 古川行男)

別表(一)

<省略>

(注) △印はマイナス符号

別表(二)1

簿外支出金額内訳表

<省略>

(注) 昭和40年7月31日に支払いを行なった括弧内金額は、札幌信用金庫からの同日付手形借入金300万円を資金源とするものであり、収入金額には加算しない。

別表(二)2

店主借金額内訳表

<省略>

(注) 本店分の1月1日△158,424円は、前年から繰り越された現金残高を原告に返戻したものである。

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